This is a Japanese translation of “Comparing charities: How big is the difference?”
あなたの寄付は、驚くほど大きな効果をもたらすことができます。しかし、その効果は寄付をする先によって大きく異なるのです。
最高のチャリティーは、同じ分野の一般的なチャリティーの少なくとも10倍、また、うまく機能していないチャリティーの何百倍もの成果を上げることができます。その一方で、最悪のチャリティは害を及ぼす可能性すらあるのです。
低所得国の子どもたちの就学率向上のために、100ドル(約14,500円[1])使えるとします。このお金で、何年間分の学校教育が可能になるでしょうか?
このお金を給付型奨学金として女子に支給した場合、約1〜2カ月分(0.15年分)の就学が可能になります。これはかなり良い条件のように見えるでしょう。しかし、その100ドルを駆虫剤購入に充て、学校における虫下し治療(体内にいる寄生虫を殺すか体外に排出する治療)に使えば、約14年間もの学校教育が可能になります。つまり、これは前者のほぼ100倍の就学を可能にします。
さらに、この駆虫プログラムは、およそ28ドルから70ドル(約4000円から1万円)で健康寿命を一年延ばすことができます(チャリティーの評価を行うGiveWell社による)。これに対して、新しい抗がん剤の使用がオーストラリアで一般的に推奨されるのは、健康寿命が一年あたり45,000ドルから75,000ドル程度(約650万円から1000万円程度)で伸びる場合です。これは、駆虫プログラムのほぼ1000倍の金額に当たります。
給付型奨学金の支給は学校教育を改善し、新しい抗がん剤の使用は命を救っており、これらは少なくともプラスの効果を持っています。しかし、常にそうなるとは限りません。同じ100ドルを少年犯罪の防止のために、「スケアード・ストレート」(恐怖体験をさせることでしつけを試みる)プログラムに使ってみるとします。その場合、100ドルの投資に対して29,300ドル(約400万円)の損失が社会に発生し、マイナスの効果をもたらすと推定されます。
このページの下にそういった事例をまとめましたが、その前に…
このことは多くの人にとっては意外に感じられるかもしれませんが、 本当は驚くべきことではないのです。というのも、あらゆる分野において、偏った分布を目にすることは多くあるからです。
最も収益性の高いビジネスは、平均的なビジネスの何倍も収益性が高い。
ベストセラー作家の売上は平均的な作家の売上をはるかに凌駕している。
多くの投資は損をするが、中には初期投資の1000倍もの利益を出すものもある。
さらに、受益者が介入の対価を支払うわけではないので、慈善事業には民間企業のような競争力学はありません。例えば、ある会社がノートパソコンに1万ドル、別の会社がより良いノートパソコンに1,000ドルの値段をつけているとしたら、前者の会社は長く生き残れないでしょう。しかし、寄付をする人の多くは、その効果に関係なく同額の寄付をするでしょう。
もちろん、これはとても重要なことです。そこには目に見える損失が実際にあるのです。ただ、それが他人に影響を与えている場合(特に距離や時間的に離れたものである場合、もしくは自分とは全く異なる場合)には、あまり気づかないだけなのです。
他人への影響に関する数字を見ているときは、1と100の違いは小さな0が2つ付いているか付いていないかだけで、それほど重要だとは感じません。それは、私たちの脳が直感的にスケールの違いを感じ取ることができないからなのです(心理学者はこの現象をスコープ無反応性[2]と呼んでいます)。
スケール感を得るには、その影響をなるべく個人的なものとして思い浮かべてみることが有効です。
以下の例をじっくり読んで、それぞれのシナリオを想像してみてください。
あなたは、50万ドル(約7000万円)もする救命手術が必要です。しかし、たった5,000ドル(約70万円)で同じような効果が得られる別の手術があることを知りました。
あなたのパートナーが、ある病気と診断され、標準的な処置では8%の確率でしか助からないと告げられます。しかしその後、同じ費用で80%まで助かる可能性のある別の治療法があると言われました。
あなたの大切な家族であるペットが病気と診断され、標準的な治療では余命6ヶ月だと宣告されます。しかし、代替治療により、6年間延命でき、素晴らしい余生を送れることがわかりました。
山火事で家族全員が立ち往生しています。そこから脱出するために使えるものは小さなバイク1台しか見当たりません。そこに、空のミニバスを運転する人がやってきて、家族全員を助けてくれました。
最初にぞっとするような感覚に陥り、その後、驚くほどの安堵感に包まれる感覚を体験できたでしょうか。これが10倍や100倍の感覚です。
良い知らせは、
優れた寄付の機会は見つけることができます。そして、
私たちの多くは幸運にも、有効活用できる大きなリソースを保有しています(これを読んでいるほとんどの人は、世界の富裕層リストに載っていることでしょう)。
典型的なアメリカ人が収入の10%を効果的な慈善団体に寄付した場合、キャリアを通して、推定100人の命を救うことができます。(例:45年間働き、平均収入が5万ドル(約700万円)、Against Malaria Foundationに寄付することで救われる命1人当たり2,300ドル(約33万円)かかる場合。GiveWellの試算による)
私たちが持っているリソースを有効に使えば、他者の人生を大幅に改善することができるのです。本当に素晴らしいことと言えるでしょう。
多くの寄付者にとってチャリティーの評価を自分で行うのは難しいため、私たちのコミュニティーは推奨する寄付の方法をまとめています。
効果的なチャリティに寄付をする
もしあなたが人々の生活を向上させることが重要であると確信しているのであれば、ご自身の収入のうち意味ある金額を寄付する誓約をすることを検討してみてください。自分の価値観を貫き、同じ志を持つ人々と出会い、そんなあなたに続けとばかりに周りの人々にも勇気を与えることができるでしょう。
寄付の誓約をする
社会に良い影響を与えたいと思うのであれば、より影響力のあるキャリアを追求したり、ボランティア活動をしたり、世界を改善する効果的な方法を提唱したりすることで、人々の大きな助けになることが期待できます。
人々を助けるより効果的な方法
以下の表は、一般に公開されているデータを使って比較を行い、基本的な論点を説明しています。
しかし、以下の点には注意してください。
最良の寄付機会を正確に数値化することはなかなか簡単ではありません。
より広く選択肢を比較することで、より大きな利益を見出すことができます。例えば、
似たような症状をより効果的に治療するかわりに、別の症状を治療することが考えられます。
今生きている人々の福利に焦点を当てる代わりに、将来世代や動物の福利に焦点を当てることができます。
これらの数値は、幅広い情報源と時期から推定されたものであり、さまざまな統計的手法を使用して算出されています。
必ずしも、以下の「効果が高い」例で使用されているすべてのチャリティーを推奨しているわけではありません。
効果が高い
効果が低い
効果や費用の差
分類
Make A Wish (チャリティ)
約10,000ドル/1件の願い
虫下し治療(SCI)
約100ドル/13.9年分の追加就学
学校制服(ケニア)
約100ドル/0.68年分の追加就学
女子学生向けの奨学金(ケニア)
約100ドル/0.15年分の追加就学
約3000ドル/417年分の追加就学
KIPPアカデミー(2008)
約3,000ドル/一人の子どもが1年間受けるサービス
虫下し治療(ケニア)
無条件現金給付(メキシコ)
約100ドル/0.01年分の追加就学
契約教師 (ケニア)
約100ドル/100SDs以上のテストスコア向上
女子学生向けの奨学金
約100ドル/1SDのテストスコア向上
補習教育(インド)
約100ドル/5SDのテストスコアの向上
ユニバーサル・ベーシック・インカム - GiveDirectly によるケニアへの送金
年間約547ドル/世帯
米国の中間層世帯に所得の1%を寄付
年間約619ドル/世帯
年間約273ドル/大人
カナダのユニバーサル・ベーシック・インカム(政策)
年間12,634ドル/大人
ザ・ヒューメイン・リーグの企業キャンペーン & 活動
約1,000ドル/10万匹の家畜の生活向上
アニマルシェルターでのレスキュー活動
約1,000ドル/2.45頭の犬や猫の保護
学校での虫下治療
約28ドル~70ドル/障害調整生存 (DALY)
新しい抗がん剤
~45,000ドル〜75,000ドル/質調整生存年 (QALY)
スケアード・ストレイトプログラムは、1ドルの投資あたり約293ドルの社会的損失をもたらしたと推定される(このプログラムは少年犯罪を減少させるどころか増加させた)
プレイポンプは1台あたり約14,000ドルの設置費用がかかるにもかかわらず、もともとあった安価なハンドポンプよりはるかに使い勝手が悪いと報告されている
最も良いチャリティとは、インパクトが大きいと評価されているものです。つまり、重要な問題に取り組み、持てる資源でもっともよいことをするチャリティです。逆に、最悪のチャリティーとは、助けようとしている人々や社会全体に対して、むしろ害を与えてしまうものです。
本文中のアメリカドルと日本円換算は、2022年10月1日現在の1USD = 約145円で計算されています。
スコープ無反応性に関する記事はこちら(日本語)からお読みいただけます。
チャリティーを比較する – どれほど差があるのか?
This is a Japanese translation of “Comparing charities: How big is the difference?”
あなたの寄付は、驚くほど大きな効果をもたらすことができます。しかし、その効果は寄付をする先によって大きく異なるのです。
最高のチャリティーは、同じ分野の一般的なチャリティーの少なくとも10倍、また、うまく機能していないチャリティーの何百倍もの成果を上げることができます。その一方で、最悪のチャリティは害を及ぼす可能性すらあるのです。
チャリティーを比較する
低所得国の子どもたちの就学率向上のために、100ドル(約14,500円[1])使えるとします。このお金で、何年間分の学校教育が可能になるでしょうか?
このお金を給付型奨学金として女子に支給した場合、約1〜2カ月分(0.15年分)の就学が可能になります。これはかなり良い条件のように見えるでしょう。しかし、その100ドルを駆虫剤購入に充て、学校における虫下し治療(体内にいる寄生虫を殺すか体外に排出する治療)に使えば、約14年間もの学校教育が可能になります。つまり、これは前者のほぼ100倍の就学を可能にします。
さらに、この駆虫プログラムは、およそ28ドルから70ドル(約4000円から1万円)で健康寿命を一年延ばすことができます(チャリティーの評価を行うGiveWell社による)。これに対して、新しい抗がん剤の使用がオーストラリアで一般的に推奨されるのは、健康寿命が一年あたり45,000ドルから75,000ドル程度(約650万円から1000万円程度)で伸びる場合です。これは、駆虫プログラムのほぼ1000倍の金額に当たります。
給付型奨学金の支給は学校教育を改善し、新しい抗がん剤の使用は命を救っており、これらは少なくともプラスの効果を持っています。しかし、常にそうなるとは限りません。同じ100ドルを少年犯罪の防止のために、「スケアード・ストレート」(恐怖体験をさせることでしつけを試みる)プログラムに使ってみるとします。その場合、100ドルの投資に対して29,300ドル(約400万円)の損失が社会に発生し、マイナスの効果をもたらすと推定されます。
このページの下にそういった事例をまとめましたが、その前に…
これは驚くべきことでしょうか?
このことは多くの人にとっては意外に感じられるかもしれませんが、 本当は驚くべきことではないのです。というのも、あらゆる分野において、偏った分布を目にすることは多くあるからです。
最も収益性の高いビジネスは、平均的なビジネスの何倍も収益性が高い。
ベストセラー作家の売上は平均的な作家の売上をはるかに凌駕している。
多くの投資は損をするが、中には初期投資の1000倍もの利益を出すものもある。
さらに、受益者が介入の対価を支払うわけではないので、慈善事業には民間企業のような競争力学はありません。例えば、ある会社がノートパソコンに1万ドル、別の会社がより良いノートパソコンに1,000ドルの値段をつけているとしたら、前者の会社は長く生き残れないでしょう。しかし、寄付をする人の多くは、その効果に関係なく同額の寄付をするでしょう。
これは重要なことでしょうか?
もちろん、これはとても重要なことです。そこには目に見える損失が実際にあるのです。ただ、それが他人に影響を与えている場合(特に距離や時間的に離れたものである場合、もしくは自分とは全く異なる場合)には、あまり気づかないだけなのです。
他人への影響に関する数字を見ているときは、1と100の違いは小さな0が2つ付いているか付いていないかだけで、それほど重要だとは感じません。それは、私たちの脳が直感的にスケールの違いを感じ取ることができないからなのです(心理学者はこの現象をスコープ無反応性[2]と呼んでいます)。
スケール感を得るには、その影響をなるべく個人的なものとして思い浮かべてみることが有効です。
以下の例をじっくり読んで、それぞれのシナリオを想像してみてください。
あなたは、50万ドル(約7000万円)もする救命手術が必要です。しかし、たった5,000ドル(約70万円)で同じような効果が得られる別の手術があることを知りました。
あなたのパートナーが、ある病気と診断され、標準的な処置では8%の確率でしか助からないと告げられます。しかしその後、同じ費用で80%まで助かる可能性のある別の治療法があると言われました。
あなたの大切な家族であるペットが病気と診断され、標準的な治療では余命6ヶ月だと宣告されます。しかし、代替治療により、6年間延命でき、素晴らしい余生を送れることがわかりました。
山火事で家族全員が立ち往生しています。そこから脱出するために使えるものは小さなバイク1台しか見当たりません。そこに、空のミニバスを運転する人がやってきて、家族全員を助けてくれました。
最初にぞっとするような感覚に陥り、その後、驚くほどの安堵感に包まれる感覚を体験できたでしょうか。これが10倍や100倍の感覚です。
良い知らせは、
優れた寄付の機会は見つけることができます。そして、
私たちの多くは幸運にも、有効活用できる大きなリソースを保有しています(これを読んでいるほとんどの人は、世界の富裕層リストに載っていることでしょう)。
典型的なアメリカ人が収入の10%を効果的な慈善団体に寄付した場合、キャリアを通して、推定100人の命を救うことができます。(例:45年間働き、平均収入が5万ドル(約700万円)、Against Malaria Foundationに寄付することで救われる命1人当たり2,300ドル(約33万円)かかる場合。GiveWellの試算による)
私たちが持っているリソースを有効に使えば、他者の人生を大幅に改善することができるのです。本当に素晴らしいことと言えるでしょう。
Giving What We Can にできることは?
多くの寄付者にとってチャリティーの評価を自分で行うのは難しいため、私たちのコミュニティーは推奨する寄付の方法をまとめています。
効果的なチャリティに寄付をする
もしあなたが人々の生活を向上させることが重要であると確信しているのであれば、ご自身の収入のうち意味ある金額を寄付する誓約をすることを検討してみてください。自分の価値観を貫き、同じ志を持つ人々と出会い、そんなあなたに続けとばかりに周りの人々にも勇気を与えることができるでしょう。
寄付の誓約をする
社会に良い影響を与えたいと思うのであれば、より影響力のあるキャリアを追求したり、ボランティア活動をしたり、世界を改善する効果的な方法を提唱したりすることで、人々の大きな助けになることが期待できます。
人々を助けるより効果的な方法
チャリティーの費用対効果比較表
以下の表は、一般に公開されているデータを使って比較を行い、基本的な論点を説明しています。
しかし、以下の点には注意してください。
最良の寄付機会を正確に数値化することはなかなか簡単ではありません。
より広く選択肢を比較することで、より大きな利益を見出すことができます。例えば、
似たような症状をより効果的に治療するかわりに、別の症状を治療することが考えられます。
今生きている人々の福利に焦点を当てる代わりに、将来世代や動物の福利に焦点を当てることができます。
これらの数値は、幅広い情報源と時期から推定されたものであり、さまざまな統計的手法を使用して算出されています。
必ずしも、以下の「効果が高い」例で使用されているすべてのチャリティーを推奨しているわけではありません。
効果が高い
効果が低い
効果や費用の差
分類
約1,000ドル/重度の視力障害の回復
約40,000ドル/目の不自由な方へのサービス
約2,300ドル/防がれる死
Make A Wish (チャリティ)
約10,000ドル/1件の願い
約2ドル/防がれる下痢の発生
約14ドル/防がれる下痢の発生
虫下し治療(SCI)
約100ドル/13.9年分の追加就学
学校制服(ケニア)
約100ドル/0.68年分の追加就学
虫下し治療(SCI)
約100ドル/13.9年分の追加就学
女子学生向けの奨学金(ケニア)
約100ドル/0.15年分の追加就学
虫下し治療(SCI)
約3000ドル/417年分の追加就学
KIPPアカデミー(2008)
約3,000ドル/一人の子どもが1年間受けるサービス
虫下し治療(ケニア)
約100ドル/13.9年分の追加就学
無条件現金給付(メキシコ)
約100ドル/0.01年分の追加就学
契約教師 (ケニア)
約100ドル/100SDs以上のテストスコア向上
女子学生向けの奨学金
約100ドル/1SDのテストスコア向上
契約教師 (ケニア)
約100ドル/100SDs以上のテストスコア向上
補習教育(インド)
約100ドル/5SDのテストスコアの向上
ユニバーサル・ベーシック・インカム - GiveDirectly によるケニアへの送金
年間約547ドル/世帯
米国の中間層世帯に所得の1%を寄付
年間約619ドル/世帯
ユニバーサル・ベーシック・インカム - GiveDirectly によるケニアへの送金
年間約273ドル/大人
カナダのユニバーサル・ベーシック・インカム(政策)
年間12,634ドル/大人
ザ・ヒューメイン・リーグの企業キャンペーン & 活動
約1,000ドル/10万匹の家畜の生活向上
アニマルシェルターでのレスキュー活動
約1,000ドル/2.45頭の犬や猫の保護
学校での虫下治療
約28ドル~70ドル/障害調整生存 (DALY)
新しい抗がん剤
~45,000ドル〜75,000ドル/質調整生存年 (QALY)
害を及ぼすチャリティーの例(負の費用対効果)
スケアード・ストレイトプログラムは、1ドルの投資あたり約293ドルの社会的損失をもたらしたと推定される(このプログラムは少年犯罪を減少させるどころか増加させた)
プレイポンプは1台あたり約14,000ドルの設置費用がかかるにもかかわらず、もともとあった安価なハンドポンプよりはるかに使い勝手が悪いと報告されている
寄付をするのに最適なチャリティーは?
最も良いチャリティとは、インパクトが大きいと評価されているものです。つまり、重要な問題に取り組み、持てる資源でもっともよいことをするチャリティです。逆に、最悪のチャリティーとは、助けようとしている人々や社会全体に対して、むしろ害を与えてしまうものです。
本文中のアメリカドルと日本円換算は、2022年10月1日現在の1USD = 約145円で計算されています。
スコープ無反応性に関する記事はこちら(日本語)からお読みいただけます。