出発点の一つは、自分が興味のある問題に特化した組織で働くことでしょう。例えば、決定的考慮事項を調べたいのであれば、Future of Humanity Institute での仕事を探してみてはどうでしょう。助成金の配分を決定することに関する問題に取り組みたいのであれば、オープン・フィランソロピーの仕事を探してみてはどうでしょう。
興味のあるトピックに関する学術文献を調べ、最終的な結論に到達して、それを説明しようと試みる(この種の演習は、 Slate Star Codex の「more than you wanted to know」タグに多くの例があり、トピックを見つける簡単な方法の一つは、個人的に興味のある医学的な質問を調べてみることです)。
ソフトウェアエンジニアは、比較的確立されたキャリアパスです。App Academy や Lambda School のようなプログラムから始めることができます。(DeepMindやOpenAIでの役職に就くには、これらのプログラムの上位数パーセントにいる必要があるでしょう。)ソフトウェア・エンジニアリングの仕事なら何でも、この適性を身につけるのに良い方法でしょう。周りに才能ある仲間が多ければ多いほど、より良いでしょう。
長期主義者のキャリア選択に関する現在の感想
This is a Japanese translation of “My current impressions on career choice for longtermists”
by Holden Karnofsky 2021年 6月5日
この記事では、長期主義者のキャリア選択について、私が現在考えていることをまとめています。80,000 Hours もこの問題に多くの時間を費やしており、私が費やした時間は彼らと比べるとはるかに少ないのですが、このトピックに関して複数の視点が存在することに価値があると考えています。
編集後記:この記事で長期主義に焦点を当てた理由については、こちらをご参照ください。
ここで挙げる仕事は、80,000 Hours が挙げている仕事と重なる部分が多いのですが、ここではそれらを異なる方法で整理し、概念化しています。80,000 Hours では、特定の課題で特定の役割を果たすための「進路」を強調する傾向があります。対照的に、私が強調するのは「適性」です。これは、(効果的利他主義以外の組織においても)さまざまな役割や課題を通して培うことができ、その後、長期主義に関連するさまざまな仕事に応用できます(複数の課題領域に取り組む選択肢を持ちながら)。適性の例としては、「優れたビジネス手法によって組織の目的達成を支援する」、「異なる主張の妥当性を評価する」、「既存のアイディアをまだ説得されていない聴衆に伝える」などがあります。
【他のキャリア選択のフレームワークとしては、課題領域(AIセーフティ、バイオリスク等)やヒューリスティック(「自分が得意とする仕事をする」「キャリア資本を構築し、選択肢を増やす仕事をする」)から始めるというものがあります。私がよく感じるのは、キャリアを選択する際には、複数のフレームワークを考慮すべきだということです。なぜなら、どんなフレームワークからも有用な洞察を得られるものの、個々のケースに対しては独断的かつ限定的になりすぎる危険性があるからです。】
適性ごとに、その適性の探求方法や、順調に進んでいるかの判断方法に関する考え方を記載しました。私が適性ベースのフレームワークで気に入っているのは、やろうと思えば比較的簡単に、ある「適性」に対する自身の見込みや進捗状況を把握できることです。これは、課題ベースや進路ベースのアプローチとは対照的です。これらのアプローチでは、ある課題領域や進路において就ける仕事があるかどうかという偶然の要素が大きく、それによって第一志望の課題や進路への適合性を明確に把握することが難しくなり、次に何をすべきか決めることも困難になります。この適性ベースのフレームワークを使っても、希望する仕事に就きやすくなるわけではありませんが、どのような仕事が自分に合うのか、合わないのかを知るきっかけにはなるかもしれません。
この記事では、長期主義的な目標に直接貢献する可能性が比較的高いと思われる適性を列挙しています。また、長期主義の観点から特に見込みがあるように現時点では思われていないものの、今後、必要性が増す可能性がある適性も含めて、リストから漏れてしまっている適性があることをご了承ください。
以下に挙げられている適性を身につけることで、長期主義の最優先課題に直結した仕事に就くことが保証されるわけではありません。長期主義というのは、かなり新しい世界の見方であり、この見方に当てはまる仕事は(少なくとも現在は)比較的多くありません。しかし、たとえそのような仕事に就けなかったとしても、行き着いた仕事や持ち合わせた適性を活かして、長期主義的な目標に貢献する機会は数多くあると思います。この考えを具体的に示すために、長期主義に貢献するための「適性を問わない」ビジョンを記事の後半で説明しています。
長期主義に関連した適性[1]
「組織作り・運営・活性化」適性[1]
概要:「一般的に役立つ」スキルを活用して、組織を支援する。「一般的に役立つ」スキルとは、さまざまな組織が多種多様な目的を達成するのに役立つスキルのことで、以下のようなものがあります。
ビジネスにおけるオペレーションとプロジェクトマネジメント(目標や評価、指標の設定など)
ピープルマネジメントとマネジメントコーチング(マネージャー職には専門的なスキルが必要な場合もあれば、一般的なマネジメント関連のスキルのみ必要とされる場合もあります)
経営リーダーシップ(組織全体の目標設定と実行、予算に関するトップレベルの意思決定など)
採用
資金調達とマーケティング
人事
オフィスマネジメント
イベントマネジメント
アシスタントと管理業務
コーポレートコミュニケーションと広報
財務と経理
企業法
例:
ベス・ジョーンズ(オープン・フィランソロピー、オペレーションズ・ディレクター)、マックス・ダルトンとジョーンズ・ガス(ともにCEA)、マロ・ボーガン(MIRI)。 (ここでは、上級管理職に就いている人々に焦点を当て、少数の例しか挙げていませんが、長期主義に注力している組織で働く人や、所属している組織は明示的には長期主義的でないものの、長期主義的観点から重要な仕事に取り組んでいる人など、他にも多くの人を挙げることができるでしょう。全体に共通することですが、挙げられている例は、単一の適正に注力している比較的単純で「純粋」なケースに焦点を当てた説明となることをご留意ください。)
この適性を身につけるには:
この適性には、さまざまな専門性があります。一般的には、どの専門性も組織内に対応するニーズがあれば、どのような組織でも身につけることができるでしょう。
多くの場合、ある専門分野で早い段階から仕事をすることで、他の専門分野にも触れることができます。たいていは、異なる専門分野の間を移動して、さまざまなことに挑戦することが可能です。(コーポレートコミュニケーションと財務・会計、法律の3つに関しては、このようなことはおそらく難しいでしょう。)
将来性があり、小規模でも成長している組織への参加には特に賛成します。このような組織では、さまざまなことに挑戦できる機会を多く得られ、組織を成功させるのに必要なさまざまな側面に触れることができます。特に、ピープルマネジメントやプロジェクトマネジメントの経験を積むには絶好の機会でしょう。これらは、あらゆる組織で通用する需要の高いスキルです。このような企業では、どのような役割であっても、柔軟な姿勢で企業の成功に貢献することに専念すれば、適性の見極めとスキルアップに役立つ良い学習体験となるでしょう。
順調に進んでいるか
第一段階として、「長期主義に関連する適性をどの程度順調に伸ばせているか?」に対する答えは、「自分の業績は一般的にどの程度優れているか」に対する答えと合理的に近似できるでしょう。昇給や昇進、人事評価などがこれに該当するデータポイントとなりますす。私が考える最も良い成功指標の一つは、あなたの最も近くで働く人々があなたを熱心に支持し、称賛に満ちた推薦をしてくれることです。そして、その人々(とあなたが働く組織)自身が優秀であるというのも同様に重要です。
この適性に取り組んでいると、「成果はしっかりとあがっているが、素晴らしいミッションに貢献しているとは思えない」という思いを抱くことがあるかもしれません。この適性を培うには、キャリア初期の段階では、熱意を持てるミッションを持った組織に所属することより、成果をあげることのほうが重要だと私は考えます。もちろん、その仕事が全体的に楽しく、持続可能であることが前提です。その後、比較的安定したコアコンピンタンスを獲得し、成長が鈍化してくる段階では、目標や使命をより重視すると良いと思います。
政治的・官僚的な適性
概要:政府(または世界銀行などの機関)で重要度の高い役割を担い、所属する大きな機関が世界の長期的な未来のために良い決断を行うよう支援する。
組織支援型の適性(前項)は、(長期的に見て)自分が賛同するミッションを持った組織が既存の目標を達成する支援を中心としますが、政治・官僚型の適性は、影響力のある地位(または影響力のあるネットワーク)を利用して、組織内の長期主義的な目標の重要性と優先度を高めることを中心とします。
基本的に、何らかの政府機関(行政や司法、立法を含む)で影響力のある地位に最終的に就くことになるキャリアであれば、この適性に該当するでしょう(もちろん、キャリアによって、関連度が異なる場合もあります)。
例:
リチャード・ダンジグ(元海軍長官、『テクノロジー・ルーレット』の著者)やジョージタウン大学で安全保障学を勉強し、政府での役割を担うことを目指す(あるいはすでにその方向に進んでいる)人々。
この適性を身につけるには:
まず、どのような機関(または機関の集合)が自分に適しているのか、明確なイメージを持つべきでしょう。「機関の規則に従いながらも、自分が長期間、比較的幸せで、生産的で、モチベーションを保っていられると想像できる機関はどこか?」と自身に問いかけてみてください。そして、その機関でキャリアの後半にいる人たちに話を聞いて、あなたが希望するようなポジションに就くのにどれだけ時間がかかるか、それまでの間の日々の生活はどんな感じか、成功するために必要なことは何か、などを可能な限り詳細に把握することをお勧めします。
そうしたら、その機関で基本的にはどのような仕事でもいいので挑戦し、機関の基準に沿って良い成績を収めることに集中すればよいでしょう。この基準がどのようなものであるかについては、順調に昇進していった人から良い指針を得られるはずです。一般的には(普遍的ではないですが)、その機関が提供するどんなコースでもそれに沿って昇進していくことは、そのコースが長期主義に直接関係するかどうかにかかわらず、良いスタートになると思います。
昇進するための最良の方法が、一時的にその機関以外の場所に行くことである場合もあります(例:ロースクール、公共政策大学院、シンクタンク)。大学院に進むと実際のキャリアトラックについてあまり学べないまま長い時間を過ごすことになりかねないというリスクがあるので、大学院に進む前に、下位の役職に就いて、どういう感じかを確かめ、大学院に通う価値があるかどうか確認しておくことは一理あるかもしれません。
順調に進んでいるか
第一段階として、「どの程度順調に進んでいるか?」に対する答えは、「その機関の基準で、自分のキャリアがどの程度早く、目覚ましく進んでいるのか?」に対する答えと合理的に近似できるでしょう。その機関でより多くの経験(と出世)をしてきた人たちは、あなたが自身の進捗を明確に把握する助けになるでしょう。(そして一般的には、そのような人たちと率直な意見を聞けるだけの良い関係を築くことも重要だと考えています。これは、あなたが「順調」であるかどうかを示す追加の指標だと言って良いでしょう。)一般的に言って、昇進し、良い成績を収めているのであれば、機関の中でも長期主義に関連する部分に進む可能性はそれなりに高いと思われます。
この種の適性に対する重要な質問の一つとして「どの程度持続可能だと感じられるか」があると思います。この質問はどの適性にも関係しますが、特にここではより重要になります。というのも、政治的・官僚的な役割の場合、どれだけ長く続けられるか、どれだけ一貫して機関の明示的・暗黙的な期待に応えられるかが、昇進の主な決定要因の一つになるからです。
「長期主義の主要トピックについての概念的・実証的研究」適性
概要:効果的利他主義者の行動に関連する問いにおいて、正しく本質的な結論に達することができるよう支援する。
どの課題に取り組むのが最も有望か?(長期主義を主張する活動も含む)。
(1)革新的なAIが開発される時期や(2)さまざまな存亡リスクの規模、といった事象の妥当な確率分布はどうなるか?
効果的利他主義コミュニティを拡大するための最も有望な方法について、過去の事例から何を学ぶことができるか?
存亡リスクを低減するために、どのような政策変更を働きかけることが最も望ましいか?
特定の課題領域において(あるいは一般的に)、助成金受給候補者間で資金をどのように配分すべきか?(また、贈るのは「今なのか、後なのか」という、時間を超えてどのように割り当てるべきかという問題もある)
効果的利他主義者は、どのような職業を目指すことが望ましいか?
このトピックは私がよく知っていることであるため、細かいところまで論じています。しかし、非常に高度な自己指導能力が要求される傾向にあるため、現時点では最も成功を収めるのが難しい適性の一つだと思っています。
例:
エライザ・ユドコフスキー、ニック・ボストロム、特に存亡リスクとAIセーフティを優先しなければならないという主張を具体化するために活動してきた人たち。
Future of Humanity Institude (人類未来研究所) で研究職に就いている人たち。
オープン・フィランソロピーで研究職に就いている人たち(助成金の配分を決定する役割も含められます)
80,000 Hours の重要な提言やアドバイスがどうあるべきかを決める取り組みをしている人たち(それらをどのように伝えるかとは異なる)。
このカテゴリーには、主に概念的・哲学的な活動をする人もいれば、主に実証的な仕事をする人もいます。また、新しい仮説を生み出すことに重点を置く人もいれば、異なる選択肢を互いに比較することに重点を置く人もいます。共通したテーマは、本質的に正しい結論に達することに専念することであり、他の人が達した結論をよりよく伝えることではありません。
この適性を身につけるには:
出発点の一つは、自分が興味のある問題に特化した組織で働くことでしょう。例えば、決定的考慮事項を調べたいのであれば、Future of Humanity Institute での仕事を探してみてはどうでしょう。助成金の配分を決定することに関する問題に取り組みたいのであれば、オープン・フィランソロピーの仕事を探してみてはどうでしょう。
重要なツールや習慣、方法を身につけることにおいては、他にも有望な仕事があると思います。
自分が取り組みたい問題に関連する分野の学問の勉強。一般化するのは難しいですが、概念的な問題については、哲学や数学、コンピュータサイエンス、理論物理学が特に有望だと思います。より実証的な問題については、社会科学の計量的な扱いに精通していることが重要だと思われるという理由から、経済学が最も一般的に有望だと思われます。(歴史学や政治学など、他にも有用な分野は多くあるでしょう。)
できれば「マクロ」なトピックや、興味のある問題にできるだけ関連したトピックで、難しい知的判断や予想をすることが大きな特徴になる仕事。「バイサイド」金融(市場予測を伴う)や政治(例:BlueLabs)にこのような仕事があります。
また、自由時間や対象の奨学金(EA長期的未来基金、リサーチ・スカラーズ・プログラム、オープン・フィランソロピーによる関連トピックに取り組む個人への支援)を利用して、独学や自主的活動を通してこれらの適性を探求し実証する機会もあると思います。
どこでやるにしても、現状これらの適性でうまくいくには自己指導能力がかなり必要だと思います。そういう意味では、まず一人でやってみることは妥当なテストと言えるでしょう(ただし、難易度を考慮すると「積極的に仕事を探す」のではなく、「楽しいか、面白いか、役に立つかを確かめる」という考え方がよいと思います)。
これらの適性を独学で試すための基本的な公式は、次のようなものになるでしょう。
効果的利他主義に関連する仮説や質問を検討し、それを深く掘り下げ、自分なりの「内的な」な見方(他人が信じていることを理由とするのではなく、自分なりの推論と論理に基づく見方)を形成する。
LessWrong や EAフォーラムなどで、自身の見解を強力な論拠の透明性とともに書き上げる。
議論に参加する。
いくつかのアプローチ例:
長期主義的なテーマについての文章や論考を綿密に、そして批判的にレビューする。例えば、『天文学的空費』や『遠い未来を形作ることの圧倒的な重要性』などの影響力の高い文章、『スーパーインテリジェンス』や『The Precipice』のいつかの章、AIのタイムラインに関するさまざまな記事などは批判考察の良い対象になるでしょう。また、もう少し簡単に始めたければ、EAフォーラムやAIアライメント・フォーラム、LessWrong、または興味深いトピックについて扱っているブログなどからの最近の投稿でもよいでしょう。同意できる部分はできるだけ明確に説明し、同意できない部分の中で重要なものを一つまたは複数説明しましょう。
「今世紀に、存亡的破局が起こる確率はどのくらいか?」(非常に広い)または「今世紀に、核の冬が起きる確率はどのくらいか?」(より狭く、おそらくより扱いやすい)などの質問を選ぶ。選んだ問題に対する現在の自身の見解と根拠を書き、また、それについて考えているときに出てきた小疑問に対する現在の見解と根拠を書いてみる[2]。「さらなる調査が必要な問題」として明示されている問題を調べてみる(例:これやこれ)。その中から、自分が解明の一助になれそうな小疑問を見つけ、発見した内容を記事にする。
また、このような練習を、より具体的で扱いやすい方法で始めることも有益です。
あなたが書きたいと思ったトピックに関する興味深い主張を説明したり批判したりする。
PredictIt や GJOpen、Metaculusで賭けや予想を行い、自分の考えを説明する。
ファクトポストを書く
GiveWellの推奨事項や費用対効果分析、グローバル・プライオリティズ・リサーチの論文(これらはすべて公開されており、基になる根拠が徹底的に説明される傾向にある)を詳しく調べ、説明や批評を行う。
興味のあるトピックに関する学術文献を調べ、最終的な結論に到達して、それを説明しようと試みる(この種の演習は、 Slate Star Codex の「more than you wanted to know」タグに多くの例があり、トピックを見つける簡単な方法の一つは、個人的に興味のある医学的な質問を調べてみることです)。
一般的に、「独創的」であることや、新しい知見を持つことにこだわる必要はないと思います。私の経験では、自分の現在の理解を具体的に書いてみると(たとえ自分の理解が「ごく普通」のもので、広く受け入れられているものだとしても)、混乱する点や不明な点が浮き彫りになり、多くのことを学んだり、まだあまり理解されていない点に気づいたりすることはよくあります。このようにまだあまり理解されていない点を思いついたときに書き出すのは理想的なことだと思いますが、それと当時に、既存の議論に関する端的で詳細な説明や批判的な評価にも、大きな価値があると思います。
順調に進んでいるか
これらの適性を身につける際に目指すべきマイルストーン(中間目標)の例をいくつか紹介します。
この仕事に時間を割き、コンテンツを作ることに成功している。(このマイルストーンは、多くの人にとって最も難しいものになると思います。この活動でしばしば要求される自己指導力を考慮すると、モチベーションと生産性を維持するだけでも簡単ではありません。)
長期主義において極めて重大なトピックについて、斬新で妥当、かつ非自明で重要な(必ずしも地球を揺るがすほどものではないが)複数の事柄を主張・説明したと、自分なりに判断していること。
少なくとも数人(真剣に時間をかけてこれらのトピックを考えていて、あなたが判断を尊重できる人)が同意していると感じるのに十分な量のフィードバック(賛成、コメント、個人的なコミュニケーション)を得ている。
これらのトピックに関心を持つ人たちと有意義なつながりを築いており、そのつながりによってさらなる資金提供や仕事の機会を期待できる。これは、あなたが興味を持っているトピックに最も注力している組織からかもしれませんし、またこれらの組織があなたに無関心または受け身に見えていても、他の人がそれに気づき、支援を申し出るという「反体制」的な力学によるものかもしれません。
私の大まかな印象と推測では、この適性に優れている人は、自主的な活動をフルタイムで1年間行えば、これらのマイルストーンにほぼ到達でき、自主的な活動を2~3年間20%の時間(例:週に1日)行うのでも十分だと思います[3]。(この種の役割では、アイディアを「バックグラウンド処理」することが重要になると思うので、1年間の20%はフルタイムの1/5よりも生産性が高いと考えます。)この「タイマー」は、時間を確保し、この活動に挑戦しようとした時点で始まると考えるのが一般的です(上述のように、生産性を伴いながら時間を割くことは、この活動の最も難しいことの一つなので、それを開始時点にしようとは思いません。)。
研究の「進路」との違い。AIガバナンスや課題の優先順位付けといった特定のトピックに取り組もうとうするのではなく、どんなトピックであっても書く意欲や興味が湧くのであれば、そこから始めてみることをお勧めします。上記の基準でうまくいった人は、何らかのトピックに関して研究キャリアを築くことができると考えています。このため、特定の分野での特定の仕事を持っていなくても、この適性を試す/探ることは可能なはずです(ただし、やはり成功率は一般的に低いとは思います)。
「コミュニケーター」適性
概要:重要で本質的に根拠のあるメッセージやアイディアを、特定の聞き手に伝えることを支援する。聞き手の対象には、ごく一般的な人(例:マスメディア向けの執筆)から、より専門的な人(例:特定の問題に関する政策立案者向けの執筆)まで含まれます。メッセージの例としては、世界的な破局リスクの重要性、AIアライメント課題、国家で秘密裏に行われる生物兵器プログラムの危険性、効果的利他主義の一般的な枠組みなど、さまざまなものが考えられます。
例:
ケルシー・パイパーをはじめとするFuture Perfectのジャーナリスト。
『アライメント問題』などの大衆向け書籍の著者。
ソーシャルメディアやポッドキャストを行う人(例:ジュリア・ガレフ、ロブ・ウィブリン)
重要なアイディアを特定の政策立案者により説得力のある言葉で表現することを目的とする、シンクタンクで働く人。
この適性を身につけるには:
まず、自分がどのような聞き手を対象(ターゲットオーディエンス)としてコミュニケーションを取りたいのかを把握するべきでしょう。「他のEAや長期主義者よりも、自分がよく理解し、うまく伝えられるのはどんなタイプの人だろうか?」と考えてみると良いでしょう。
そして、対象とする聞き手とコミュニケーションを取り、定期的にフィードバックを得ることができる仕事に就くことを目指しましょう。ここでは、その内容がEAや長期主義に関連するものでなくても問題ありません。磨かれる主な適性は、その聞き手とのコミュニケーション能力全般になります(EAや長期主義のトピックへの理解もいずれは重要になるでしょう)。ですから、かなり一般的・広い聞き手とのコミュニケーションに興味があるのでしたら、ジャーナリズムのほとんどの仕事、そして広報や企業コミュニケーションの多くの仕事は、この基準を満たすと言えるでしょう。
また、このような適性は自主的な活動を通しても身につけることができると思います(例:ブログ、ツイッター、ポッドキャスト)。私が、コミュニケーターとして大きな可能性を持っていると期待するのは、大量のコンテンツを作ることや、対象となる聞き手と自然に繋がることを比較的楽にできる人です。(独自に大衆向けの活動を行っている場合、意図せず不快に捉えられるものを公開してしまうことで、たとえそれが誤解によるものだとしても、キャリアの展望に長い間影響する可能性があるので、何らかの対策を講じておくことをお勧めします。)
順調に進んでいるか
第一段階として、「どの程度順調に、長期主義に関連したコミュニケーターとしての適性を身につけれられているか」に対する答えは、「今いる(コミュニケーションに特化した)キャリアトラックの基準で、どの程度一般的に成功しているといえるか」に対する答えと合理的に近似できるでしょう。この観点で成功していればしているほど、今後より良い機会にめぐりあい、長期主義的に重要なアイディアを対象となる聞き手に伝える方法を見つけることができる可能性が高まるでしょう。
また、独自のコンテンツ制作でファンを増やすことも、将来有望である兆しでしょう。
いずれの場合も、2~3年以内には自分の状況をかなり正確に読み取ることができるようになると考えるのが現実的でしょう。
「起業家」適性[4]
概要:長期主義的な目標に取り組む組織を設立し、構築、そして(少なくともしばらくの間は)運営する。研究など活動の独立性を確保するために組織を設立する人もいるが、ここでイメージしているのはそういう人ではなく、自分が辞めてもうまく機能し続ける組織を作ることを目的として、雇用や管理、文化・ビジョン設定などに投資することを明確に目指す人になります。
(すべての組織が、上記のように明確な目的を持った人物によって設立されるわけではありません。組織の設立は一人の人物によってなされるものの、「起業家」としての仕事の多くが後から入ってきて責任者としての役割を担う人々によって行われるというケースも時々あります。)
例:
例えば、ベン・トッド(80,000 Hours)やジェイソン・マセニー(CSET)、エリー・ハッセンフェルドと私(GiveWell)はこのかなり良い例と言えるでしょう(括弧内は設立された組織を示しており、その人物がまだそこに在籍しているかどうかは問いません)。他の長期主義的な組織の多くは、初期の段階でトップの入れ替わりが激しかったり(誰が「起業家」としての仕事の大部分を行ったのかやや不明)、伝統的な組織というよりは学術センターであったりします。
この適性を身につけるには:
起業家活動には、「正しい方法」を実際に学ぶことができないほど多くの仕事を同時にこなすことが必要になります。重要になるのは、物事の多くを「それなりに」(通常はほとんど訓練や指導を受けずに)処理し、「うまく」やる価値のある少数の物事にエネルギーを集中させる能力と意欲です。
このような観点から、私が一般的に組織の設立に最も適すると思うのは、その組織が存在すべきだ(そして成功しうる)という強い確信を持っており、他の何かに取り組むことを想像するのが難しいほど組織の設立に熱心になれる人です。このような人は、自分が何をしようとしているのか、どうすれば上記のようなトレードオフができるのかについて、実に明確に把握している傾向があり、頼りになる指示がほとんどなくても、多くの労力を費やす意欲と能力があるのです。
したがって、私の起業に対する一般的な考え方はこうです。もし、「こんな組織を作りたい!」と心の底から強く思っている(または、少なくともはっきりとしたビジョンがある)組織がないのなら、起業家になる時ではないでしょう。それよりも、自分の興味のある世界について学んだり、組織がどのように機能しているのかを知ったりできる仕事に挑戦するほうが、より有意義でしょう。そうすることで、後々埋めたいと感じる「市場におけるギャップ」を見つけることができるかもしれません。
もし、成功する可能性があると思える組織のアイディアが何かしらあって、そしてそれを作ってみたいと強く思っているのなら、組織作りに挑戦してみることは、一般的な「起業家」としての適性を身につける素晴らしい学習経験かつ方法になると思います。(追記:また、慈善活動など他の方法でインパクトを与えることも考えられます。こちらの議論を参照してください。)このことは、考えている組織が長期主義に重点を置いた活動をしていない場合(例えば、従来のテック系スタートアップ)であっても当てはまります。しかし、組織を成功させ、責任を果たした状態で離れ、他のことに移ることができるようになるまでには、長い時間(数年から場合によっては10年以上)かかることを念頭に置いておくとよいでしょう。
順調に進んでいるか
最初の2、3年は、組織がそれなりの財務状況にあり、明確な大失敗もなく、人材確保もうまくいっているのであれば、組織作りはそれなりにうまくいっていると言えるでしょう。その先は、組織の状況を判断するには、強力な主観的判断が必要になります。
「コミュニティー作り」適性
概要:共通の興味や目標を持つ人々を集め、その興味や目標に向けたより強い取り組みを形成し、それらを追求するための機会やコネクションを増やす。これは、直接的なネットワーキング(多くの人と知り合い、知り合った人を紹介していく)や、ミートアップ・イベント、はっきりと人材募集をする[5]などを通して行うことができます。新しい人にリソースを紹介し、彼らがより多くを学ぶのを助けることも重要な要素です。
例:
地域や大学などでEAグループを組織している人。EAGxなどを組織しているEAグループ。Centre for Effective Altruismで働いている人の多くも同様。
この適性を身につけるには:
ネットワーキングや紹介の機会作り、ミートアップやイベントの企画など、所属しているコミュニティや知り合いを通して、たいていの場合、すぐにでも活動を始めることができるでしょう。最初は空いている時間に行うことができますが、勢いのある小規模コミュニティができたら、フルタイムで活動するための資金探しや、一緒に働く仲間を増やすことができるかの検討をお勧めします。
順調に進んでいるか
この記事で紹介している他の適性と比べ、この適性において「順調に進んでいるか」を判断する条件を明示するのはやや難しいのですが、考えれらる候補は以下のようなことでしょう。
具体的な例として、ミートアップのようなモデルを挙げます。フルタイムであれパートタイムであれ、1~3年の間に、定期的に交流するグループの組織に大きな役割を果たし、高い意欲を持って定期的に顔を出す人がそれなりにいて、長期主義的インパクトのためにキャリアの多くを捧げ、成功すると考えられる人がある程度いれば、うまくやっていると言えると思います。(コミュニティは千差万別なので具体的な数字を出すのは難しいですが、私がイメージしているのは、二桁の常連参加者と少数の有望な人材です。)
他のバージョンのコミュニティ作りは「定期的に集まる効果的利他主義者のコミュニティを組織する」のではなく、「新しいつながりを生み出すイベントを作る」ように見えるかもしれません。この場合、イベントの参加者(特にリピート参加)や、参加者が他の人へ薦めているかどうかをもとに、誰があなたのイベントを「支持」しているかに注目することで、あなたの活動がどのような役割を果たしているか把握することができると思います。
もう少し一般化すると、「順調に進んでいる」状態とは、多くの人が価値を感じ、他の人に薦めるような空間やサービス(ネットワーキングサービス、ソーシャルスペース、ディスカッションスペースなど)を提供していて、対象となる人々が誰で人々がその空間から得ている価値が何かを強く認識していて、特に有望な人によって、提供している空間やサービスが大いに活用されている。
ソフトウェアエンジニア適性
概要:ソフトウェアエンジニアは、さまざまな方法で長期主義的な目標達成の役に立つことができると思います。
AI研究所(ほとんどは産業界だが学術界にもいくつか)ではソフトウェアエンジニアの需要があり、それは拡大しているでしょう。
場合によっては、エンジニアがAIアライメント研究に直接携わることもあります。Anthropic や DeepMind、MIRI、OpenAIFにはこのような役割が存在しています。
また、大規模で高性能なAIシステム(例:AlphaStar、GPT3)を構築し、それを分析・特性評価する場合もある。所属する研究所が、他の目標よりもAIリスクの低減を重視しており、そのため、これらのシステムの公開や配備には慎重である一方、アライメント研究に役立てるための分析と利用には多額の投資を行う場合、これは(ほぼ間違いなく)長期主義的な目標にとってよいことでしょう。
ソフトウェアエンジニアは、大量の分析を行う組織でも役に立ちます。政治に携わる組織(例) やバイオセキュリティ・パンデミック対策に携わる組織などが考えられるでしょう(後者については今のところ例を知りませんが、将来的にそういった機会が出てくる可能性は十分にあると思います)。
ソフトウェアエンジニアは、高い報酬を得られる傾向にもあります。特に成功したスタートアップに早くから参加していた場合はなおさらでしょう。(また、テック企業を立ち上げたいと考えている人にとっても、おそらく有用な経歴となるでしょう。)こういった理由から、慈善事業家志望の人にも向いているかもしれません。
例:
キャサリン・オルソンやトム・ブラウンは、両者とも OpenAI、Goolge Brain、そして、Antrhopic でソフトウェアエンジニアを務めました。
この適性を身につけるには
ソフトウェアエンジニアは、比較的確立されたキャリアパスです。App Academy や Lambda School のようなプログラムから始めることができます。(DeepMindやOpenAIでの役職に就くには、これらのプログラムの上位数パーセントにいる必要があるでしょう。)ソフトウェア・エンジニアリングの仕事なら何でも、この適性を身につけるのに良い方法でしょう。周りに才能ある仲間が多ければ多いほど、より良いでしょう。
順調に進んでいるか
「組織作り・運営・活性化」の「順調に進んでいるか」セクションを参照して下さい。
情報セキュリティ適性
(このケースでは、「適性」と「進路」の間にそれほど大きな違いはありません。次のセクションも同様です。)
概要:不正なアクセス(または改ざん)から情報を守り、情報の安全性を保つ。以下のようなものが考えられます。
情報セキュリティにおける理論的で最先端の問題の研究(理論的にどのような攻撃が可能で、理論的にどのように防御できるかなど)。
企業において、(A)情報セキュリティの目標とニーズを定義、(B)実用的なソリューションの種類を定義、(C)実際に情報の安全性を維持するための解決策の展開と支援。
クレア・ザベルとルーク・ミュールハウザーによるこの投稿によると、「情報セキュリティの専門知識は、AIやバイオセキュリティに関連した破局リスクに対処するために極めて重要かもしれない… より一般的には、情報セキュリティの専門知識は、[世界的破局リスク]を低減しようとする人々にとって役に立つかもしれない。なぜなら、そのような活動は、時に、誤用すれば害を及ぼす可能性のある情報に関与することになるからだ… 10年以内に、情報セキュリティで世界的破局リスクに焦点を当てた役割が何十種類も出てくる可能性が高く、組織の中にはすでにニーズに合った候補者を探している(見つかれば今すぐ採用する)ところもある … この分野に挑戦した人が直接仕事に就けなかったとしても関連スキルを身につけることができれば、そのスキルセットが高い需要を持つ高収入のキャリアにたどり着くことは十分あり得る。」
これらの点には私も概ね同意している。
例:
残念ながら、私が知る限りでは、高度な情報セキュリティのキャリアを歩んでいる効果的利他主義者は、今のところあまりいないようです。
この適性を身につけるには:
どこかしらの企業で情報セキュリティに携わるか、あるいは情報セキュリティの研究分野で働くことが、この適性を身につけるための良い方法でしょう。最も適しているのは、セキュリティが重要な大手ハイテク企業の仕事でしょう。アマゾンやアップル、マイクロソフト、フェイスブック、そして(特に)グーグルは良い例です。
順調に進んでいるか?
「組織作り・運営・活性化」の「順調に進んでいるか」セクションを参照して下さい。
アカデミア
概要:アカデミアにおいてキャリアをたどるということは、多くの場合、比較的早い段階で分野を選び、博士号を取得し、アカデミアでのポストに就き続け、印象的な論文業績を挙げるために努力し、最終的には終身教授の立場を目指すことになるだろう(アカデミアから採用が行われる他の仕事もあるが)。アカデミアはかなり自己完結したキャリアなので、この記事の冒頭で定義した「適性」と「進路」の間に大きな違いがないケースです。
学者であることは、いくつかの点で長期主義的な目標に役立つ可能性があります。
長期主義において重要な問題と本質的に関係する研究を行うかもしれません。この場合、この適性は「長期主義の主要トピックについての概念的・実証的研究」の適性と重なることになるでしょう。
自分の専門分野において、長期主義的に重要な考え方の知名度を上げる機会があるかもしれません。これは、一種の専門的な「コミュニケーター」の役割と考えることができるでしょう。(Global Priorities Instituteでは、この点と上記の点を組み合わせたものを目指すことが多くあります。)
専門家として、政策立案者や一般の人々にアドバイスをする機会があるかもしれません。
効果的利他主義や長期主義に関する講義を担当するなどして、長期主義的に重要なアイディアを学生に紹介する機会があるかもしれません(例)。(余談ですが、幼稚園の年長から高校までの先生になり、効果的利他主義や長期主義における重要なアイディアを生徒に紹介する機会を模索するというのも、潜在的に大きなインパクトがあると思います。)
さらに、学術分野によっては、インパクトの大きい非アカデミア学術的な役割への道が開かれる場合もあります。最も良い例はおそらくAIでしょう。AIを研究し、キャリアの早い段階で素晴らしい業績を上げると(博士号を取得する前であっても)、民間のAI研究所で「科学者」としての役割を果たすことができるようになります。経済学も、政策立案など、学問以外の分野でも活躍の場を広げることができるでしょう。
このような機会につながる可能性のある学問分野は数多くあります。特に長期主義者に関連する可能性が高いと思われるのは、以下のようなものです。
AI(人工知能)
生物学、疫学、公衆衛生学、バイオリスクに関連する他の分野
気候学
経済学、哲学(この二つは Global Priorities Institute の優先分野になっています)
例:
ヒラリー・グリーヴス/Global Priorities Institute、スチュアート・ラッセル/Center for Human-Compatible AI、ケビン・エスヴェルト
この適性を身につけるためには:
アカデミアのキャリアパスは、非常に明確に定義されています。アカデミアの道に進む人は、その分野にいる人から、どうすれば前進できるか、前進しているかどうかをどうやって知ることができるかについて、かなりしっかりしたアドバイスを受けることができるでしょう。
一般的に、進む分野や、その分野内でのトピックやプロジェクトを選ぶときに、従来の基準で成功することに重きを置くようお勧めします。つまり、キャリアの初期から長期主義的な目標に直接関連した仕事をすることに最適化しすぎない方が良いと思っています。
順調に進んでいるか
これに対する私の回答は、「政治的・官僚的な適性」と基本的に同じです。
他の適性
長期主義者の目標に直接貢献する可能性を秘めた適性は、ここに書ききれないほどたくさんあるでしょう。
ハイブリッド適性
上記のような適性を2つ(またはそれ以上)持っていることで、他の人ができないような役割を果たすことができる場合があります。例えば、ソフトウェアエンジニアとしてそこそこ優秀で、なおかつ、プロジェクト/ピープルマネージャーとしてもそこそこ優秀な人の場合、ソフトウェアエンジニア単体や非技術的なマネージャー単体としてよりも、ソフトウェアエンジニア・マネージャーとしてより大きな貢献ができるかもしれません。効果的利他主義コミュニティでは、「概念的・実証的研究」はしばしば「コミュニケーター」と密接に関係しています(ニック・ボストロムが『超知能』を書いたように。)
ハイブリッド適性を構築する選択肢にオープンであることは良いことだと思いますが、専門性が強力であることを念頭に置いておくことも大切です。ハイブリッド適性を追求する理想的な方法は、ある適性から始め、その後、その適性を補完する別の適性を身につける機会に気づき、キャリアオプションを向上させることだと思います。キャリアの初期に複数の適性を同時に追求することは、一般的にはお勧めしません。
適性を問わないビジョン:一般的な長期主義の強化
上記の適性のどれかを身につけることで、AI研究やEA組織、政治機関など、長期主義的な目標に直接取り組むことができる機会につながる可能性があると考えています。また、ここで挙げた適性以外でも、長期主義に直接携わる機会に繋がる適性は多くあるとも思います。
しかし、自分に最も適した適性は、長期主義の機会に繋がるものではないと感じる人もいるでしょう。また、上記のような適性を身につけても、結局はそのような機会に至らずに終わる人もいるでしょう。
このような状況にあっても、長期主義を一般的に強化する取り組みを行うことで、「寄付するために稼ぐ」以上に、長期主義的な目標に貢献できる大きなチャンスがあると私は考えています。このカテゴリーで考えつくのは、以下のようなことです。
長期主義の考え方を自らのネットワーク内で広める。長期主義を強引に、あるいは友人を困らせるような方法で広めるべきだとは思いません。しかし、人脈や人望がある人は、普段は耳を貸してくれないような人にも、重要な考え方を伝えて興味を持たせる機会に自然と巡り合うでしょう。(そして、どんなキャリアでも成功を収めれば、他の成功者たちとの人脈を得られるでしょう。)このようなことが得意な人は、長期主義をある種の人にどのように伝えるかに関しての専門家になることができるかもしれません。
長期主義や効果的利他主義の集まりに顔を出す(およびそういった会を作ったり主催したりする)(例:地域のミートアップ、EA グローバル、ディナー、パーティ、講演会)。自分がその場にいることとそういった場へのフィードバック(何が最適でないかに気づき、それについて声を上げる)の両方を通して、イベントの質を高めることができるでしょう。個人的な利益のためだけにこういったイベントに参加する必要はないと思います。新しく参加する人がすぐに良い経験をでき、尊敬する人に出会えるような、より良いものにすることはとても良いことだと思うのです。また、このようなイベントの開催・企画は、良いアイディアである場合が多いでしょう。
模範的人物になる。深い知識を持ち、献身的で、発言力のある長期主義者でありながら、長期主義者でない人たちから高く評価され、知り合えてよかったと思われるような人物になることを目指しても良いでしょう。人々の模範となれる人物は重要で影響力があるので、どのようなコミュニティにおいても、大きなインパクトを生み出すことができるのではないでしょうか。
効果的利他主義者や長期主義コミュニティにおける声高な「顧客」になる。私は、「〜だから私はこのコミュニティに歓迎されていない気がする」といった声や「〜だから長期主義者と関わるのが難しい」、「〜のようなイベントは本当に貴重で、もっとあればいいのに」といった声を大事にしています。異なる視点を持つ人は、様々なことに気づき、長期主義コミュニティが今後彼らのような人を確保する際に活かされます。
子どもを育てる。このことに言及するのはやや変な感じがしますし、子どもを持つ「べき」だと触れ回りたいわけではありません。しかし、子育てには大変な労力がかかり、おそらく長期的な未来をより良くすることが期待できると思うので、このことに言及しないのも変でしょう。今のところ、子どもを持つ長期主義者が増えれば、親や子どもにもっと優しい長期主義コミュニティの需要も大幅に増えると推測しています。これは、長期主義と長期主義者にとって有益だ(かつ些細ではない)と思います。
寄付をする。これを比較的後ろに挙げているのは、「寄付するために稼ぐ」ということが、上記の項目と比較しておそらく強調されすぎていると思うからです。それでも寄付には大きな潜在的インパクトがあると思っています。
GiveWellにおけるトップチャリティのような「明白」で任意に拡張可能な寄付先が現時点の長期主義にはありません。もしワクワクできる特定の寄付先がないのであれば、単純に貯蓄・投資をすることは理にかなっていると思います。理想的には、長期主義の価値観にあった最適な投資慣行に従うと良いでしょう(例:長い時間軸で他者に利益をもたらすことを目的とした資金に対して最適な量のリスクを取る、慈善目的の資金に対する税金を減らすために慈善団体を利用する。今後、こういったことに関する記事が出てくることを期待しています。)現時点では貯蓄・投資をしておくことが今日寄付することよりも優れているかどうかについては議論がありますが、少なくとも引けをとらないと思います。
寄付者抽選も手堅い選択肢のように思えます。
この二つであれば、寄付の最適化を考えて毎年ストレスを感じる必要はありません。その時間とエネルギーを、プロとして、人として成功することを目指すのに費やした方が、上記のすべてに貢献できるので、これは良いことだと思います。
必要/機会が出てきた時に、長期主義の仕事に直接携われるよう準備をしておく。未来は予測しにくいもので、今は長期主義者の仕事への道筋が見えない人でも、将来は大きなチャンスに恵まれるかもしれません。
キャリア後期での転職は難しいものです。転職に伴い、給与をはじめ、地位や評価、感謝、快適さなどが大きく減少してしまう可能性があります。その上でキャリア後期での転職を真剣に考えている人は、(その事実だけでも)印象的で重要なことを成し遂げたと言えるでしょう。また、肉体的、精神的(そして経済的)に健康という観点で大きな「蓄えが」あれば、成功確率は高くなるでしょう。
今やっていることで成功を収め、誰も敵わない適性を身につけながら、適切な機会があれば転職する準備ができている人は、ある意味で、直接的な仕事だけで(長期的に)かなり高いインパクトを期待できると思います。このインパクトの期待値は、現時点で長期主義を最優先しているように見えるキャリアにいるが、そこでのパフォーマンスが必ずしも優れてない、または持続的でない、柔軟でない人が持つインパクトの期待値よりも高いことが多いと思います。
どんな仕事であれ、上記の多くのことに幅広く成功している人は、長期主義的に大きなインパクトを与えることが期待できると考えています。どんな仕事であれ、成功を収め、満足のいく仕事をしていることは、これらすべての面でおそらく役立つでしょう。
適性の選び方
どの適性が「最も大きなインパクトがある」のかについて意見が欲しい人もいるでしょう。
この点に関する私の意見は、適性内のばらつきは、適性間のばらつきを凌駕していることがほとんどだろうというものです。挙げられた適性のうち、どれか一つでも突出したオンリーワンの才能がある人は、莫大なインパクトを与えると期待できるでしょう。成功を収め高い業績をあげている人は、とても大きなインパクトを与えると期待できるでしょう。かろうじて仕事にしがみついているような人は、たとえ就いている職務が理論的にはインパクトのあるものであっても、前者二つに比べて与えるインパクトは小さくなるでしょう。
また、ある適性を「プロとして求められる」までに高めるには、一般的に長い時間をかけてコツコツと取り組む必要があると思います。そのため、仕事を楽しんでいて、職場環境でうまくやっている時の方が成功する可能性が高く、どのような適性を身につけたいと考える際には、この点にそれなりの重きを置くべきでしょう。(このことは特にキャリア初期に当てはまると思います。)[6]
これらの点を念頭に置いて、私が重要視する価値があると思う二つの基本ルールを提案したいと思います。
「Nを最小にする。ここでNは、この適性においてあなたよりも必要とされている人の数である。」よりカジュアルな表現にすると、「成功しそうなことに取り組む」と言えます。
「自分の直感や感情を真剣に受け止める。」 多くの人は、次にどんな適性に挑戦したいか本能的にわかっているでしょう。通常、こうした直感に従うのは良い戦略であり、見積もられるインパクトの大きさを理由に直感を上書きするべきではないと思います。(直感が通常「正しい」と考えているわけではありません。優れたキャリアの多くでは、仕事が自分の思い描いていたものと違うと学んだり、軌道修正をしたりしながら、たくさんの試行錯誤をするでしょう。好奇心やワクワクが最適な最終目的地を直接指し示しているというわけでありませんが、好奇心やワクワクに従った方が、より効果的に学べると思います。)
成功の程度は同じでも、それがどの適性における成功かによってインパクトの大きさがどう異なるのかという点で、何らかの区別をつけておくべきでしょう。しかし、この点に関する私の推測はかなり乱暴なもので、課題の優先順位に関する私の現在の見解と、(急速に変化しうる)世界の現状にかなり影響されます。そして、ここに挙げた適性のいずれも、長期主義的に莫大なインパクトをもたらす可能性があると思いますし、はたまた、そのインパクトは適性を問わずに長期主義を強化するものによるかもしれません。
アドバイスに関して最後に言いたいこと
この記事を通して、私は適性の身につけ方、順調に進んでいるかどうかの見分け方、成功してインパクトを与えるのに役立つ基本ルールなど、多くの感想を述べてきました。
私がこの記事を書いたのは、長期主義者が使用する他のフレームワークを補完するのに役立ち、重要だと私が思うキャリア選択のための一般的なフレームワークや考え方を伝えるためです。
しかし断っておきたいのですが、私は、よく知っている人であっても誰かにキャリアに関するアドバイスをすることには、一般的に神経質になります。なぜなら、キャリア選択は個人的な問題であり、アドバイスする側が、相手の性格や状況などに関して重要なことに気づかないことはよくあることだからです。ましてや、私が何も知らない様々な状況にある人たちが読むかもしれないインターネットにアドバイスを載せるのは一層不安です。
なので最後に述べたいのは、「ある特定の人は私にこうすべきと言うだろう」という自身の解釈をもとに、それがなければしないような根本的に異なる決断を下すという意味での「アドバイスを受ける」ことは一般的に避けるべきだということです。願わくば、この文章がインスピレーションを与えたり、議論を促したり、自分自身の判断で物事を考えたりするのに役立つものであって欲しいと思います。そして、この文章が、特定の選択肢や一連の選択について、何らかの指示や好みを示すものと受け取られないことを願っています。
「反アドバイス的なアドバイス」を多く含んだこのページへのリンクも置いておきます。私の言葉の引用は、こちら(「キャリアとは個人的なものだ」)、こちら(「自分の仕事が非常に得意な場合は、他人のアドバイスもそれほど役に立たない」)、こちら(「他人のアドバイスはあまり聞くな」)。
本文中の注に関しては原文を参照してください。